4-3.雄と雌にはなぜ「隹」が付いているのか?
◇漢字の参考書を見ていたら、ふと面白い事柄に気がつきました。雄と雌の漢字の“つくり”である「隹」(ふるとり)は、下ぶくれしたズングリムックリな鳥を意味しているというのです。にわとり・アヒル・うずらなど、空を飛べない鳥がイメージされます。それに対して普通の「鳥」はスマートな形をしていて、良く空を飛べる鳥ということらしいのです。
◇漢字を生んだ中国では、何故オス・メスを表す字に「隹」を付けたのでしょうか?
にわとりは古くから人間が飼ってきた鳥類で、その卵=玉子は食卓を賑わし、また鶏肉としても身近かで手に入れられるものでした。
ただし「メスのにわとり」は「玉子」を産むので、簡単に食肉用として殺してしまってはいけないわけで特に「めんどり」と呼び、「オスのにわとり」を「おんどり」と呼んで、両者をはっきりと区別する必要があったのです。
◇にわとりと同じように、犬や猫も人間とは長く一緒に暮らして来ましたが、こちらはただオス犬、メス猫などとしか呼ばれませんでした。これは何故でしょうか?
・・その答えは簡単です。人間にとって彼らをオスとメスとに区別する意味があまりなかったからです。
◇人間の身近にオスとメスとを区別しておかないと、たちまち食生活に困る「にわとり」が居たので、おんどりを示す「雄」と、めんどりを示す「雌」という漢字が生まれたのでしょう。これが雄・雌には、にわとりのイメージされる「隹」が付いている理由だと少なくとも私は考えます。
◇ところでオス・メスを表す漢字にはもう一種「牡・牝」があります。「おうし」と「めうし」です。めうしの牛乳は飲み物でありチーズやバターなどの乳製品の原料としても大切なもので、それはめんどりの玉子の場合と同様と考えられます。
◇人間の生活にとって、区別しておくことが重要な意味をもつ場合に初めて、おんどり・めんどり/おうし・めうしなどの固有の言葉が生まれるのです。動物とは格段と区別された人間は「男・女」という特別の名称が付けられていますが、言葉とは元来そういうものであったのだという事実を再認識させられます。
◇外国語で、おんどり・めんどり/おうし・めうし/おす・めす/おとこ・おんな・・・などをどのように表現しているかをいくつか調べてみました。すると日本語の様に「おすどり」が訛(なま)って「おんどり」となったのとは異なり、固有名詞化がよりハッキリと読み取れるのです。
◇例えば、英語ではおんどりはcook、めんどりはhenで、フランス語では同じくcoqとpouleとなり、いずれも両者の差異はハッキリしています。それに対してイタリア語のgalloとgallinaのように語尾変化によって区別されている場合もあります。
◇ドイツ語ではder Hahn(おんどり)die Henne(めんどり)と呼んでいます。
Hahn,Henneと区別した上に、男性名詞(der)女性名詞(die)が二重に付けられています。これはドイツ語の厳密性が表われていて大変興味深いものがあります。
★次へ
